Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「顔を上げて、エミリ」
その言葉に、またピクリとエミリが反応を見せる。
「何も恥じることはない」
「……ハンジ、さん……」
ハンジに言われた通り、ようやく顔を上げたエミリの頬に一筋の涙が流れる。
「ハンジさんの言う通りだよ」
優しい口調でハンジの後に続いたペトラは、さっき握ろうとしたエミリの手にそっと触れ、自分の手で包み込んだ。
「うん。エミリはよくやったよ」
「最終試験までよく頑張ったもんだ」
「お疲れ様! だから後はゆっくり休め。な?」
ハンジ班のメンバーたちも口々にそう言って、エミリに励ましの言葉を送る。
そこでエミリは、やっと、ハンジだけでなくそこにいる全員の顔を瞳に映すことができた。
怒った顔でも冷たい瞳でもない、温かい笑顔と眼差しに、少しだけ救われたような気がして心が軽くなった。
「…………ありがとう、ございます……」
謝罪でも懺悔でもない、感謝の言葉がエミリからようやく聞けたことに納得したハンジたちは、笑顔で頷いた。
「ったく、一回失敗したからって落ち込んでんじゃねえよ!」
「ちょっとオルオ!!」
そこで出てくるのは、オルオのいつもの皮肉だった。ペトラは、「もう少し柔らかい言葉をかけなさい!」と腰に手を当て怒っているが、オルオなりの激励の言葉であることはちゃんとわかっていた。
エミリも、ハンジたちも……
「ほら、お腹空いたでしょ? 夕飯取ってあるから食べなよ!」
ハンジに背中を押され、エミリは近くの席に着く。そんなエミリの前に温かいシチューを乗せたトレーを置いたのは、モブリットだった。
「冷めないうちに食べるといい。お代わりもたくさんあるから、遠慮なく言ってくれ」
「はい」
皆の優しさに、胸のつかえが少しずつなくなっていく。
スプーンを手に取りシチューを口に運ぶ。温かいスープが口に広がり、寒さで冷えた体を温めてくれた。
そして、目の前で楽しそうに会話を交わす仲間たちを瞳に映す。
日向のようにほっこり温かい彼らの優しさは、とても嬉しかった。
けれど、だからこそ未練も強くなっていく。
こんな素敵な仲間たちの気持ちに報えなかった、無力な自分が嫌いで仕方がなかった。