Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
夕飯を食べ終えたエミリは、そのまま部屋に戻ることはなかった。
どうしても、今すぐにやりたかったことがあったからだ。
エミリの用事は書庫にあった。そこに一体なんの用があるのか問われれば、答えはただ一つ。
(……ちゃんと、復習しないと)
何がいけなかったのか、どこて躓いたのか、それを今のうちにしっかりと把握しておきたかった。
明日、では駄目だから。
今、でないと意味がないのだ。
そんな思いから本を手に取り読み進めて行くも、心に積み重なっていくのは、「あの時こうしていれば……」という後悔の念だった。
全く知らなかった知識、しっかりと理解できていなかった内容、うっかりミスをした箇所など、文字との睨めっこを続けていた。
そんなエミリの元へ静かに歩み寄る一つの影。
本に集中しているエミリは、その気配に気づいていない。
その人物が真横に立っているにも関わらず。
なかなか意識をこちらへ向けないエミリに痺れを切らし、その人物は彼女の頭に手を置いた。
「……え」
「おい」
突然、自分の頭に何かが触れたかと思いきや、今度は横から掛けられる聞き覚えのありすぎる声に、ようやく意識を本から隣へ逸らす。
「……へい、ちょう……?」
いつの間にそこに立っていたのか、全く気づかなかったエミリは、驚きからポカンと口を開いたままリヴァイを見つめている。
「どんだけ本に集中してたんだ。ったく、少し前から居たってのに、全く気づきやしねぇ……」
「す、すみません……」
そんなに前から居たのだろうか。エミリは、申し訳なさそうに眉を下げる。
「まあ、それはどうでもいい。それより、お前何やってんだ」
「え、何って……今日の試験の復習です」
当たり前のように答えたエミリに、リヴァイは呆れた表情を見せる。
さっき、ハンジからエミリの試験について聞かされた。そこでまさかとは思ったが、本当に予想通りになっているとは思わず、期待を裏切らない奴だと返って感心してしまった。