Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
夕食を終えた調査兵団の食堂はとても静かだ。響き渡るのは、食器を洗う音くらいだろうか。
しかし今日は、コツコツコツと食堂内を徘徊しては頭を掻きむしる者と、その人物に呆れた視線を寄越しながらも神妙な面持ちで席に着いている者が数名、溜息を繰り返しながら仲間の帰りを待っていた。
「……分隊長、落ち着いて下さい……」
目の前を往復し続ける自分の上司に痺れを切らしたモブリットが、いい加減にしろと言いたげな表情で冷たく言い放つ。
言葉を投げられたその人物は、ピタリと足を止める。しかしそれは、モブリットに従ったわけではない。反抗するためである。
「無理に決まってるだろ!? モブリットはエミリが心配じゃないのお!?」
「そりゃあ心配ですよ! けど、なんと言いますか……分隊長にウロウロされるとイラつきます!!」
「ちょっとそれ酷くない!?」
ハンジとモブリットのそんな声は、食堂内に虚しく響き渡るだけだった。
通常であれば周りにいる者たちは、二人のやり取りに対して苦笑を浮かべて傍観しているところなのだが、とてま今はそんな気分にもなれなかった。
「……あれ〜皆、今日は反応ナシ? ハンジさん寂しいなあ!!」
少しでも場の空気を軽くしようと試みるも、どこからも反応が無い。
「参ったなぁ……」と頭を搔く他なかった。
「あのね、皆! エミリの試験のことが気になるのはわかるけどっ! そんっな重たい顔してたって、何も変わんないからね!?」
「分隊長、さっきまで落ち着きもなくウロウロしていたご自分にその言葉を送ってやって下さい!!」
自分を棚に上げたハンジのその発言は、全く説得力がない。
ぼーっと自分の手元を眺めたまま、何も話そうとしないペトラたち。
どうにかしてこの空気を変えられないかとハンジが頭を悩ませていると、入口から人が入ってくる気配を感じた。
「……エミリ!?」
まさかと思いハンジが声をかければ、それに反応したエミリが顔を上げる。
「……ハンジ、さん……」
「「エミリっ!!?」」
ガタッ
絞り出したようなエミリか細いの声に、勢いよくペトラと二ファが立ち上がり、エミリの元へ駆け寄った。
遅れてハンジや彼女の班員、オルオも後に続く。