Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
昼食を終えた受験者たちは、薬草園で採取した薬草を手にそれぞれ指定された部屋へ移動し、待機していた。
最終試験の課題は薬を作ること。そのため受験会場は、本社の研究室となっている。
エミリも自分の受験番号が貼られた研究台に付き、開始の合図を静かに待っていた。
「それでは、薬剤師試験の最終試験を始めます。提示された課題を時間内に完成させなさい。それでは……始め!」
その直後、受験者たちが一斉に製薬道具に手をつける。
道具を使い、手際よく作業を進めていく受験者たちを見ていると、最終試験まで進んだだけのことはあると再確認できる。
あらかじめ課題を想定していたのか、一寸の迷いもなく動かされるその手つきは、プロ顔負けとも言える。
(……みんな、凄い……私とは雲泥の差だ……)
そんな周りの受験者たちに翻弄されていくエミリ。
こうして実際に周りの実力を突きつけられると、気合いよりも不安の方が勝っていく。
受験とは自分との戦い。だが、それは受験当日までの話。本番は、自分以外の受験者全てがライバルなのだ。
(……ううん。怖気付いている場合じゃない……!)
いま自分は、何のためにここに立っているのか。それを忘れてはならない。
思い切り頬を両手で叩き、震える手で道具に手をつけた。
薬草を切ったり、細かくしたり、すりまぜたりしながら課題を進めていく。
そうして作業に集中していく内に、いつの間にか心の中から不安は消え去っていた。
汗を光らせながら、時間を無駄にしないように、ただひたすら手を動かし続ける。
不思議と周りの音は、自分の耳に入ってくることはなかった。静かな空間でただ一人きり、そのような感覚がエミリの意識を支配していた。
(よし、後は仕上げだ……)
浅い知識を頭の中でフルに回転させ、作業を進めてきたエミリの中には疲労が蓄積されていた。
一呼吸置いて顔を上げれば、目に入るのは時計。それを目にした瞬間、再び焦りが生まれた。
(……っ!? 5分切った!?)
時間が無い。
これまでよりも作業を進めるスピードを上げる。そんなエミリには、もう余裕など残っていなかった。そして────
「そこまで!」
終了の合図が響き渡る。
そんな中エミリは、顔を上げられずに立ち尽くしていた。