Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
最終試験の課題は、当日発表されることになっている。
よって、試験の開始は昼食を終えた後、午後からだ。午前中は、発表された課題に応じて薬草の採取を薬草園で行うために時間が設けられている。
講堂に集められたエミリたち受験者は、静かに課題の発表を待っていた。
緊張の渦に呑まれそうになるが、気をしっかりと持ち、いつもよりはっきりと耳に響く時計の音と共に心臓を鳴らし、試験官が来るのをただじっと待つ。
30分ほどしてから、試験官──ファティマが壇上に上がってきた。
(ファティマ先生!?)
まさか、彼女自ら課題を発表しに現れるとは思いもよらず、受験者たちはざわめきだす。
「静かになさい」
ファティマのその一言に、しん……とざわめきが止んだ。
「これより、試験の課題を発表します。本日、皆さんに作ってもらう薬は二種類。
一つは、民間薬。解毒剤を作ってもらいます。形状は自由です。
もう一つは、漢方薬。こちらは形状だけでなく、効能についても自由です」
ファティマに提示された課題に、また受験生たちがざわめく。
試験課題が複数であることは皆わかっていた。だが、二つ目の課題である漢方薬が、形状だけでなく効能まで自由形式だとは誰も予想していなかったのだ。
これまでは、一つ目の課題のように効能も指示が出されていた。しかし、それがされなかったのは、今回の試験が初めてではないだろうか。
「以上が最終試験の課題となります。
器具はこちらで用意しておりますので、午前の間に薬草は各自で採取し、午後の試験に備えなさい」
必要事項のみを伝えたファティマは、そのまま壇上から降りて行った。
その際、彼女とエミリの視線が一瞬だけ交わる。
(……先生と目が合った。今の無意識じゃないよね……)
まさか今回の試験課題は、エミリに対して何らかのメッセージでも隠されているのだろうか。
その上、ファティマが試験課題の発表をすることも、おそらく初めてだ。これまでは、彼女の部下が試験官として受験生に伝えていたからである。
(……先生、何を考えていらっしゃるんだろう……)
読めないファティマの行動に、エミリの心の中には少しずつ焦りが生まれていた。