Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
三人から送られた手紙を読み終えた後、エミリの頬には涙が流れていた。
ミカサは会った時から文字を綴ることが少し苦手で、それなのにいつも手紙を書いてこうして送ってくれる。
アルミンはいつも正直だから、そんな彼の素直な言葉は、読む度にエミリの心にスッと溶け込んでいった。
そしてエレンは、会えば必ず意地を張って素直になろうとしない。それでも手紙では、不器用ながらにエミリを頼ってくれる。
手紙は意地っ張りなエレンを素直にさせてくれる魔法のような代物だ。
そんなエレンの、姉と向き合おうとしてくれる真っ直ぐな姿勢が嬉しくて、その思いがいつもエミリの支えとなってくれている。
「負けてられないね。私も……」
エレンたちも頑張っているのだから、姉として情けない姿を見せたくない。
なんとしてでも受かりたい。
皆の気持ちに報いたい。
胸元で祈るように両手を握りしめ、ゆっくり、大きく深呼吸を繰り返した。
馬車はウォール・シーナの壁を超え、真っ直ぐに進んでいる。
庶民の家とは比べ物にならないほどの、豪華な装飾が施された家がずらりと並ぶ中を通り抜ける。
そして、真っ直ぐと進んだその先に、試験会場が見えた。
最終試験は、一次、二次試験とは違い別の会場となる。これまでの試験は、王都に創設されてある薬剤師の専門学校で受験が行われていた。
しかし最終試験のみ、壁内に複数設置されている薬屋支店の本社、そこが今回の試験会場となっていた。
建物は、まるで宮殿を思わせるようなものであり、見ているだけでも圧倒される。
そして本社の最高責任者は、もちろんファティマである。
(……また、先生とお会いすることがあるかもしれないんだよね)
ファティマは、エミリに大切なことを気づかせてくれた。そのお陰で最終試験まで進むことができたということを忘れてはならない。
次に会った時には、この間突きつけられた課題に対してちゃんと答えたい。
自分は成長しているのだと見てもらいたい。
そしてその時は、きっと自分も薬剤師になっていてほしい。
停車した馬車から降りたエミリは、真っ直ぐと試験会場を見据え、足を踏み出す。
そんな彼女の足元には、小さな花が一つ。
ひらり、と花弁が一枚、儚く散った。