Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
ガシャンッ!!
叩かれた振動で、机の上に乗せられた道具が音を立てて揺れた。
机に手をついて項垂れているのはエミリ。開かれた参考書を見下ろしながら、片手で頭を抱えていた。
最終試験を三日後に控えたエミリは、ハンジの研究室に引きこもりっぱなしだった。もちろん、最終試験の課題である実技の練習に取り組むためだ。
しかし、高度な技術と膨大な知識量がエミリを追い詰め、日に日に彼女の自信は奪われていく一方だった。
「エミリ、大丈夫?」
「……二ファさん」
険しい表情を見せるエミリに声を掛けたのは、近くで作業をしていた二ファだった。片手には白いマグカップがある。
「はい、これでも飲んで落ち着いて」
そのマグカップを差し出され、エミリは「ありがとうございます」と一言添えてそれを受け取った。
中を覗き込むと、カップと同じ白色の液体が湯気を放ち、カップの中で揺れていた。これはホットミルクだ。
一口、口に含み飲み込めば、温かい液体が体内に流れ、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「行き詰まってるの?」
「……どうしても上手くいかなくて……知識の量も半端じゃないので、ちゃんと最後までやり切れるかどうか、少し不安になってしまったんです」
「そっか」
受験勉強に完成はない。
終わりが見えないからこその不安と焦りは、エミリの情緒を不安定にさせていた。
「私、エミリは大丈夫だと思うなあ」
「……え?」
「だって、エミリがいつも全力なこと知ってるから」
何に対しても真剣に取り組んで、突き進んでいるから、失敗してもエミリならばそれを未来に活かす力を持っている。
二ファのその言葉は、そう信じているからこその発言だった。
「だから、皆エミリのことを見守ってきたんだよ」
「二ファさん……」
「いつも通り、エミリらしく全力でやればいいじゃない。ね?」
「はい……!」
二ファの励ましによって、エミリに笑顔が戻る。
何を怖気づいているのだと自分を叱咤し、喝を入れた。
しかしこの時、自分の力がどれだけ貧弱であるかをエミリはまだ知らない。そんな状態のまま、三日後の朝を迎えるのだった。