Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「へ、兵長!? もう、ちゃんとノックしてくださいよ……」
掃除をしているだけだったから良かったものの、もし着替えでもしていたらどうしてくれるのだと、目を細めて軽くリヴァイを睨む。
しかし、そんなエミリの視線もリヴァイには通用しない。いつものように涼しい顔で頬を膨らませているエミリの元へ歩み寄る。
「一人で掃除していたのか」
「はい……掃除しないと薬なんて作れないですからね」
「まあ、そりゃあそうだな。……手伝ってやる」
「え? いやいや、いいですよ。兵長、忙しそうですし」
おそらく、多分、親切で掃除の手伝いを買って出てくれているのだろうが、何だかすごく嫌な予感がした。
リヴァイの潔癖についてはハンジからもよく聞かされている。
実際に共に掃除をしたことはないが、話を聞いている限りかなりスパルタに仕込まれる気がしかしない。
「遠慮することはねぇ。一人よりも二人の方が早く終わる。それに、丁度いい機会だ。俺もこのクソ汚ぇ部屋をどうにかしたいと思っていたからな」
「は、はぁ……」
そう言いながら、ジャケットをハンガーに掛け、布で口元を覆い、三角巾を頭に付け始めるリヴァイを、エミリは口をポカンと開けて見つめていた。
徹底された彼の掃除装備が意外すぎて、どう反応していいのやらわからない。
「エミリ、お前も付けろ」
手渡されたのは二枚の布。つまり、これを付けて掃除をしろと言うことだろう。
「安心しろ。薬を作っても全く問題ねぇほどに仕上げてやる」
その言葉と共に、地獄のお掃除タイムが始まった。
その後、何度リヴァイから「全然なってない。全てやり直せ」と指摘を受けただろうか。
もう数えるのも嫌になってくるくらい、掃除のやり直しをさせられたエミリの精神は追い詰められていた。
やはりプロは違う。
それを実感させられ、もう動けなくなるほどクタクタになった頃には、ハンジの研究室はピカピカとなっていた。
それから数日間、部屋の汚れを気にすることなく実技の練習に取り組むことができた。
そんなエミリの元に届いたのは、二次試験通過を知らせる通知だった。