Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
ハンジをペトラと二ファに任せ、エミリは一人でハンジの研究室へ戻っていた。
部屋の椅子に腰を下ろした途端、疲れから溜息が零れる。
ハンジが風呂に入り続けないことなど、過去に何度もあったが毎回このような攻防を続けている。そして、何度やってもハンジの扱いには慣れない。
「……ハンジさんてば、また散らかして……」
以前訪れた時よりも更に書類やらゴミやらが散乱している状況に、またもや溜息が一つ。
仕方ないかと立ち上がり、研究室の掃除をすることにした。
(今日は試験日だったし、前みたいに勉強は休もうかな……)
これで実技の練習なんかしている所をバレたら、フィデリオにまたドヤされるに違いない。あれでも結構、彼は心配性な所があるのをエミリはよく知っている。
ヴァルトと再会したあの日だって、行方不明になったエミリが心配でずっと落ち着きがなかったという話をオルオからこっそりと聞かされた。
いつも喧嘩ばかりしているエミリとフィデリオだが、幼馴染とはこういうものなのかもしれない。
「……さて、やるか」
ゴミ袋を用意したエミリは、片っ端から机の上に散らかった不要な紙を集めていく。
何本か散らばっている筆を筆立てへ戻し、汚れた場所は雑巾で拭き取り、ミニ箒を使って細かい塵を掃いたりと、黙々と手を動かしていた。
いつもであれば、どうせハンジがまた散らかすことは目に見えているため、書類をまとめて机のスペースを確保するだけにしておくだけだが、薬の実技練習をするのであれば清潔でないといけない。
「おい、エミリ」
「ひえっ!?」
突然、部屋の扉が開かれ声をかけられたエミリは、ビクリと体を揺らして声を上げた。
振り返れば、入口に立っているのはリヴァイ。ドアノブを握ったままエミリを見つめていた。