Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「確かに……お前の言う通りだ、クソメガネ。自分のやりたいことに熱中しちまうのは誰にでもあることだ。そんな奴を俺はたくさん見てきたし、お前の言い分も理解できる」
「そ、そうだよねぇ!!」
「……だがな、そんな奴らでも風呂には入っていたぞ」
「……え、あっ、そ、そうなの……?」
ただでさえ低い声がさらに低くなり、ハンジの恐怖を煽っていく。
「そうだ。てめぇほど不潔なクソ野郎は見たことがねぇ」
体を洗える場所があり、水だってたくさん出る。石鹸やシャンプーだってあるにも関わらず、こんなにも臭いを漂わせる人間を見たのは初めてだった。
「エミリ、ペトラ……とりあえずそのクソメガネから離れろ。病原菌が伝染るぞ」
「「はーい」」
「ちょっとちょっと、病原菌って言い過ぎじゃない!? ていうか、二人もなんで素直にリヴァイの指示に従ってんのさ!!」
そんなハンジの悲痛な声を相手にすることなく、彼女を放って話は続けられた。
「こいつに触れる時はちゃんと手袋をはめろ。あとエミリ、お前は戻れ。もし二次が通過したって時に、こいつの体内に住み着いてる病原菌が伝染ってました……なんて、洒落になんねぇからな」
「了解です」
「エミリーー!!」
いつもに増して冷たい自分の部下に、ハンジは涙目を浮かべながらエミリに手を伸ばす。
しかしその手が、誰かに触れられることはなかった。
「リヴァイ」
「何だ、エルヴィン」
今までずっと何も言わずに静観していたエルヴィンが、含みのある笑みをたたえて会話に参加してきた。
そんなエルヴィンの様子に嫌な予感がしたハンジは、顔面蒼白になったまま冷や汗を流して口元を引き攣らせていた。
「二ファを連れてきたから、ハンジの入浴は彼女とペトラに任せよう」
「え、二ファ……?」
もう一人の部下の名前が挙げられ、ハンジの視線はエルヴィンの後ろで目を細めている二ファへ移った。
「や、やあ……二ファ」
「分隊長、入浴が終わったあとは、きっちり仕事してもらいますからね。書類が大量に溜まっているので」
「あはは……はい」
これまでのサボり癖のツケがこんな所で回ってきたのだろうか。
ようやく観念したハンジは、ガックリと項垂れたのだった。