Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「ハンジさん、観念して下さい!!」
「風呂に入る時間が惜しいんだよ!!」
「だから寝てる暇はあったじゃないですか!!」
入口付近の柱にしがみついて離れないハンジに、説得を試みながら脱衣場へ引き摺り込もうとするが、そんなに風呂に入りたくないのか、なかなか離れてくれない。
「ハンジさん!!」
「風呂なんかよりも、巨人の研究の方が」
「おい、お前らこんなとこで何やってんだ」
そこへ加わった違う声に、三人は言い合いを止めて停止した。
ゆっくりと首を動かして見れば、そこには呆れた表情のリヴァイと苦笑を浮かべたエルヴィンが立っていた。
柱にしがみついたままのハンジとそれを引っ張るエミリとペトラの妙な攻防に、リヴァイは眉を顰めている。
「兵長! 兵長からも何とか言ってください!!」
「あ?」
「えぇ!? ちょ、ダメだって! リヴァイはダメ!!」
リヴァイにもヘルプを求めるエミリを、ハンジは青ざめた表情で阻止しようと声を張り上げる。しかし、そんなハンジの声に耳を傾ける者は誰もいない。
「クソメガネがどうかしたのか」
「ハンジさん、5日もシャンプーで頭洗ってないって言うんですよ!?」
「…………あ?」
「水浴びすら3日前なんですよ!? もう、すんごい臭いんですよ! だからお風呂で洗おうとしてるのに、ハンジさん言うこと聞いてくれないんです!」
「なんっでリヴァイに言っちゃうのさあああ!!」
リヴァイの潔癖すぎる性格を誰よりも知っているからこそ、何をされるかわからない。
現にエミリから事情を聞いたリヴァイの顔は、とても険しいものだった。
眉間の皺は増え、絶望的なものを映しているかのようにハンジを見下ろしている。
その顔はとてつもなく無表情で冷たかった。
「いやあ、あのね、リヴァイ……私はちゃんと風呂に入ろうとしたんだよ? でもさあ、何かに熱中しちゃうとそういうの忘れちゃう時ってあるでしょ?
ほら、リヴァイだってさあ、掃除に夢中になって仕事忘れちゃう時とかあるよね? ね!?」
早口で弁明するハンジだが、最早言い訳にすらなっていないそれに、エミリとペトラは半眼でハンジを見下ろしている。
そしてリヴァイの眉間には、相変わらず幾つも皺が寄っていた。