Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
巨人に関する調査を専門的に行っているハンジの研究室には、それはもうよくわからない謎の薬が並べられてある。
エミリはこれまでそれを見て見ぬふりをしながら、ハンジの研究室を借りて実技の練習をしていた。
「ハンジさん、実技の練習したいので研究室借りてもいいですか……あれ?」
ノックをした後すぐに部屋を入れば、そこにハンジの姿は無かった。
いつも巨人のことで頭がいっぱいな彼女は、研究室にいることの方が多いのだが、また暴走してどこかに出掛けているのだろうか。
「ハンジさん、いないね」
「うん……」
エミリの後ろから研究室の中を覗き込んだペトラも、珍しくそこにない姿に視線を彷徨わせる。
「……あっ! エミリ、あれ!!」
「どしたの……ハンジさん!?」
二人が目にしたのは、資料に埋もれて床に倒れ込んでいるハンジの姿だった。
何かあったのかと急いで駆け寄る。
「ハンジさん! ハンジさん、しっかりして下さい!!」
書類を退けハンジの体を揺らせば、「ん〜……」呑気な声を漏らしゆっくりと瞼を開けた。
ぼんやりと視界に入るものがエミリだとわかったハンジは、そのままふにゃりとだらしない笑みを浮かべる。
「やあ、エミリ……お帰り〜。ところで、今何時?」
「へ?」
「つい眠くなっちゃってさぁ……いつの間に寝てたんだろうね? あはは」
寝起き独特のゆったりとした喋り方で、ヘラっと笑うハンジにカチンときたエミリは、手に持っていた書類をハンジの顔の上にバサリと大きな音を立てて戻す。
「もう! 心配してたのに寝てたって何なんですか!! ちゃんとソファかベッドで寝てくださいよ!!」
体調が悪くなって倒れたのかと本気で心配だから。紛らわしいから床で寝るのだけはやめてほしいと思う。
「ごめんごめん! 心配かけちゃってさあ……寝起きになんか食べようかな! あ、エミリも一緒にどう? エミリのためにプリン買っておいたよ?」
そう言いながらハンジは、ガシリとエミリの肩に腕を回す。
そのまま彼女の返答を待っていたが、一向に帰ってこないことに気づいたハンジは、エミリの顔を覗き込んだ。