Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「……皆していったい何なの……」
何か隠し事をしているようにも見えるが、悪い話ではなさそうだ。しかし、あんな風に誤魔化されてばかりだと気になって仕方がない。
「分隊長、エミリのことを心配しているんだよ」
「え?」
同じく取り残されたモブリットが、未だに酒の試飲ではしゃいでいる自分の上官を目に映しながら、困ったように微笑んでいた。
「心配って……」
「エミリは真面目だし責任感も強いから、一切手抜きなんかしないだろうって。だから、たまには試験のことを忘れさせてやりたいってね」
「そうなんですか……でも、なんでそれが試験の前日なんです?」
「前日だからこそ、なんじゃないか? 当日に備えてリラックスするのも大切だろう」
モブリットの話に耳を傾けながら、エミリの視線はハンジを捉えていた。
いつも暴走することの方が多いため、すっかりと忘れていた。
ハンジが、誰よりも優しくて気遣いのできる人であるということを……
今では、ハンジとの生活が当たり前となっているため、彼女のそんな細やかな気遣いに気づけなかった。
「モブリットさんたちは分かっていたんですね……」
「俺たちも同じ気持ちだったからな。応援はしている。けど、そこまで自分を追い詰めてほしくない。
兵団のためとかじゃなく、自分のために突き進んでほしい。君が夢を追い続けることに、大きな責任を背負ってほしくないんだ」
仲間のため、皆のため……エミリはそうやっていつも無茶をする。自分のことなんて二の次だ。
薬剤師になりたいという思いも、そこから来ている。
でも、なりたいとエミリが思うのは自分自身なのだ。だからこそ、自分のために夢への時間を費やしてほしいのである。
「けど、自分のためって……それじゃあ自己満足になりませんか?」
「そんなことはないさ。エミリが思っている以上に、君の気持ちはちゃんと俺たちに伝わっている。逆に君はもう少し我儘になるべきだ」
実はモブリットも密かに心配していた。ハンジと同じく彼女が新兵の頃からずっと一緒にやってきた。
エミリの考えも性格も、全てというわけではないが大体わかっている。