Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
リヴァイから見たエミリは、”奇跡”というものを信じている人間のように思えた。
彼女が以前話していた、ミリアという魔女の女の子の物語を思い出したことが根拠となった。
その物語の話をしている時のエミリは、とても幸せそうで、目をきらきらと輝かせていたのを今でもはっきりと覚えている。
そして何より、エミリとリヴァイの考え方は、全く正反対のものだから。
自分が信じていないのであれば、エミリは信じているのではないかと、単純に思った。
「…………私は、奇跡を信じてはいませんよ」
しかし、エミリの答えはリヴァイの予想と違っていた。
リヴァイは、思わず夜空からエミリへ視線を移す。
「ふふ、意外でした?」
「……ああ、まあな」
「…………奇跡なんてあったら、きっと、あんなにも仲間はいなくなっていません。家族も、友人も、みんな……」
無数の星を瞳に映しながら、悲しそうな表情で心に存在する重たい気持ちを吐露していく。
そんなエミリの気持ちは、もちろんリヴァイも強く共感できた。
「……兵長、わたし……さっきはあんなこと言いましたけど、でも、本当に願いを叶えてほしいのは……あの星たちなのかもしれません」
「……星が、か?」
「人は死んだら星になるって、よく言われますよね。そんな人たちの中には、未練を残して逝ってしまった人が多いと思うんです」
特に、エミリやリヴァイたちを取り巻く環境は、正にそうである。
人類と自由のために心臓を捧げ、巨人と対峙した兵士たちの多くは、その意志を貫き通せぬまま散りゆく。
母であるカルラだって、エミリやエレンたちに「逃げて」と必死に声を上げていたが、それはきっと本心ではなかったはずだ。
大切だから生きてほしい。
大切だからずっとそばにいてほしい。
その二つの矛盾した思いが、きっと最期までカルラの中に渦巻いていたはずだ。
自分が母の立場であれば、おそらく同じ思いを抱えていただろうから……
そう、奇跡なんてものがあれば、あの時、母を失うことはなかった。