Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
ペトラたちと夕飯を共にしたエミリは、エルヴィンやハンジに試験から帰ってきたことを報告した後、そのまま入浴まで済ませてしまった。
フィデリオに言われた通り、今日はこのまま休むつもりでいるため、後は寝るだけなのだが、そんな気になれなかった。
かといって、じっとしておくのもなんだか落ち着かず、エミリは気分転換にと兵舎の屋上へ来ていた。
「……やっぱり、この時間帯は冷えるなあ」
外に出た途端、冷たい風が急激にエミリの体温を下げていく。
持参した毛布を体に包み、エミリは真っ暗な夜空を見上げた。
「……綺麗……」
大きな丸い満月。その周りには、たくさんの星たちが煌めいている。
流れ星でも降るのではないかと思ってしまえる程の美しい夜空だ。
兵舎の屋上でたった一人、静かな空間の中で目を閉じる。風が吹くたびに髪が自身の頬を掠め、大きく靡いていた。
(……父さん、母さん、ファウスト兄さん……私、今も続けてるよ。薬剤師になるための勉強)
そばにいない、大切な人たちの存在を脳裏に浮かべ、夜空の星に向かって思いを馳せる。
(……絶対、叶えてみせるから……)
ファウストと出会えたから、薬剤師という夢ができた。
グリシャが医者でなかったら、憧れの気持ちを知らずにその夢すら忘れていたかもしれない。
カルラが、笑顔は大きな力になると教えてくれたから、何があっても必ず最後は笑って前を向ける。
今、隣にいない大切な人たちは、エミリにたくさんの宝物をくれた。
その宝物を、宝物としてもっともっと輝かせていたいと思うから……そして、仲間たちのために何としてでも結果を出したい。
(見守っていてね)
自分の力で、きっと道を切り開いてみせる。
そう、強く心に誓った。