Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
「お前なぁ、人が気にかけてやってるってのに……」
「ごめんごめん! ありがとね」
いつもすぐに嫌味を飛ばしてくるフィデリオのらしくない言動が珍しく、ツボにハマったエミリは、「変なの〜」とずっと笑い続けていた。
「おい、さっさと飯食おうぜ。腹減った……」
ぞろぞろと食堂に兵士たちが集まる中、そこに紛れながらフィデリオはトレイを取りに先に行ってしまう。
「ケッ、一丁前にカッコつけやがって……」
「オルオ、あんたねぇ……フィデリオがいつも女の子にモテるからって、そう邪険にしないの」
「うるせぇ!!」
不貞腐れた顔を見せるオルオに、ペトラが呆れた表情でやれやれと首を振る。
一応、美形の部類に入るフィデリオは、よく女性から声をかけられることも多い。
オルオと並んで歩いていれば、必ず一度は可愛らしい女の子に声を掛けられているのだ。
そんな時、オルオは必ず空気のように扱われているのである。
「いいか、俺はモテねぇわけじゃねぇ! 女の方に見る目がねぇんだよ!」
見た目はチャラチャラしたフィデリオのようなチャラ男と一緒にしないでほしいと主張するも、誰からも反応が一切無いことに気づく。
「……………………あれ」
その異変に気づいたオルオは、自分の両サイドを確認する。そこに、ペトラとエミリの姿は無かった。
「ねぇ、今日の夕飯って何なの?」
「少し奮発して今日はグラタンだって言ってたわ」
「本当に!? 私、グラタン大好き〜!!」
「って、エミリは美味しかったら何でも大好きなんでしょ?」
唖然と一人突っ立ったままのオルオの耳に入るのは、既にトレーを持って列に並んでいるエミリとペトラの楽しそうな声だった。
「……お、お前らなぁ……無視だけでなく俺を置いてくんじゃギィッ!!」
いつものお約束で勢いよく舌を噛んだオルオは、痛々しい声を上げながら、一人寂しくその場に蹲って、痛みが引くのをじっと堪えていたのであった。