Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
調査兵団の兵舎では、フィデリオ、ペトラ、オルオの三人が、食堂の隅に固まって親友の帰りを待っていた。
どうか、良い報告が聞けますようにと願いながら……
「試験っていつ終わるって?」
大きな欠伸をしながらペトラに問うフィデリオは、とても眠そうな顔をしていた。特にすることもなく、ただ幼馴染の帰りを待っているだけのこの状況は、とてつもなく暇だ。
「午後の三時くらいって言ってたわ」
「へぇ〜」
またもやふわぁ、と欠伸を見せるフィデリオの姿に、ペトラは呆れ顔だ。
エミリが頑張って試験を受けに行ってるのに、あんたは……と言いたげな表情でじっ、とフィデリオを睨むも、それを見て見ぬふりしている。
「三時頃ってことは、もうすぐ帰ってくるんじゃねぇか……?」
時計を確認すれば、もう五時を過ぎていた。試験はとっくに終了している頃である。
それは置いておくとして、だ。
今度はオルオまで大きな欠伸をするため、とうとうペトラは彼の横腹に肘打ちを決めた。
突然のことに「グゥっ!?」と呻き声を上げ、オルオはペトラに抗議する。
「何しやがんだ!! 何で俺だけなんだよ!!」
「うるさい! あんたはどつきやすいからに決まってるでしょ!!」
「ンだと!?」
恒例の夫婦喧嘩を始める二人。フィデリオはそれを眺めながら、フッと鼻で笑う。
「お前らもう結婚しちまえよ」
「はぁ!? フィデリオ、信じられない!! なんで私がこんな老け顔と結婚しなくちゃならないのよ!! 絶対に有り得ないから!!」
「おい! 誰が老け顔だ!! 俺だってお前みたいな口煩い女、誰が嫁にするかよ!!」
フィデリオの冷やかしに反応した二人の言い合いが、さらにヒートアップしていく。
良いコンビなのに勿体ない。
フィデリオはやれやれと肩を竦めた。そんな彼の目に偶然映りこんだのは、食堂にやって来た一人の影。
「あ、エミリ」
「え!?」
フィデリオの言葉に反応したペトラは、オルオとの喧嘩を中断し、勢いよくエミリの方へ振り向いた。