Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
指定の部屋に辿り着いたエミリは、受験票と筆記用具のみを机に置いて、じっと席に座って時間になるまで待つ。
周りにはたくさんの受験者たちが、エミリと同じように席に着いて静かに待っていた。
目を閉じて心を落ち着かせている者や深刻な顔で胸をさすっている者、ここに来てもなお参考書に齧り付いている者など様々だ。
「…………はぁ」
緊張でどうにかなりそうだ。この空間から出たくて仕方がない。しかし、こんな所で怯むわけにはいかない。試験はまだ始まってすらいないのだから。
(平常心、平常心……)
心の中で唱え、エミリは右手首につけてあるブレスレットを目に映す。
それは、エレンとミカサ、アルミンがエミリのために作ってくれた、シトリンの腕輪。
これを身につけていると、勇気が湧いてくるようで安心する。だから、今日も付けてきた。
次にエミリが視線を移したのは、机に並べている筆だった。
淡いピンク色のグラデーションが美しい羽の筆は、ペトラがエミリに貸してくれたものだった。
「私は近くで応援できないから、代わりにこれを持って行って」と言って、エミリが兵舎を出る前に渡してくれたものである。
(あ、そうだ……髪飾り!!)
出掛ける前に、二ファからも貰い物をしたことを思い出し、急いで鞄を開ける。
ポケットから取り出したのは、髪飾り用のオレンジ色のリボンだった。
それを、髪を一つにまとめているゴムの上から巻き付け、キュッと縛る。なんだか、気合が入ったようで、少し気持ちが楽になった。
(皆がここまでしてくれたんだから、何としてでも一次を突破してみせる……!!)
再び気合を入れたところで、ガラガラと部屋の扉が開いた。入室してきたのは試験監督の男性だった。
「定刻になりましたので試験を始めたいと思います。まず、注意事項についてですが……────」
幾つかの注意点が伝えられ、問題と解答用紙が配られる。全ての受験者の元に行き渡り、その後はただ開始の合図を待っていた。
ドクン……ドクン……
心臓の音がやけに大きく聞こえ、鼓膜を震わせる。そして、
「それでは、始めてください」
その合図と共に筆を持ったエミリは、問題用紙を捲った。