Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第17章 未練
一月になると以前よりもさらに寒さが増す一方で、暖炉から離れられない日々が続いていた。
特に早朝は、布団から出られないほどに寒くて仕方がない。
しかしエミリは、そんな寒さに負けることなく毎日早起きをして勉強を続けていた。
肩から足まで毛布を包み防寒を徹底し、ひたすら筆を動かし続けていた。
そして、とうとう薬剤師試験当日となった今日、エミリは鞄を下げて受験会場である王都へ馬車に乗って向かっていた。
膝の上には、これまでお世話になった参考書。内容をざっと目に通しながら、ドクドクと収まらない胸に手を当てる。
何度深呼吸をしても落ち着かない。煩い心臓の音を聞きたくなくて、エミリは耳を塞ぎたくなった。
(……基礎を集中して勉強したは良いものの……)
疲れたように大きく溜息を吐く。
やはり、本番となると不安で仕方が無かった。
一次試験は筆記試験だが、基礎をしっかりと身につけ応用問題も抑えていれば解ける問題だ。
二次試験の筆記試験よりも難易度がまだ低いため、ケアレスミスさえしなければ、今のエミリの実力で通るはずだ。
しかし、もしかしたら……。と、そんな嫌なことを考えてしまう。
「ダメ。今は余計なことを考えない……」
今は、目の前の試験に通ることだけに集中することが何よりも大切だ。
「ペトラたちも、朝早く起きてお見送りしてくれたんだから……!」
ペトラやオルオ、フィデリオはもちろんのこと、エルヴィンやハンジ、ミケ、リヴァイ、そしてリヴァイ班やハンジ班、更にはミケ班の班員たちも、忙しい中エミリにエールを送り、見送ってくれた。
その思いを無駄にするわけにはいかない。
「よし……!!」
体全身に行き渡るように、もう一度大きく深呼吸をする。そのあと、思い切りバシンと自分の頬を叩いて刺激を与えた。
「会場に到着致しました」
気合を入れたと同時に、御者が車の中にいるエミリに向けて到着を知らせる。
エミリは礼を言って、馬車から降りた。
外には数多くの受験者たちがぞろぞろと会場へ入っていく。
(この人たち全員が、私の相手……)
絶対に負けないと拳を握ったエミリは、しっかりと前を見据えて会場に足を踏み入れた。