Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「どうして、またこの参考書を? 前に買ってきた応用問題集は? 過去問とか載ってるんでしょ? それ使わないの?」
もうすぐ試験だと言うのに、こんな初歩的なことをやっていて間に合うのだろうか。それが一番の疑問だった。
「それでいいんです。もう一度、初心に帰ろうと決めたので」
試験はまだ終わってはいないが、突きつけられた問題に関しての区切りは自分の中で着いた。
だから、ハンジたちにも話せるだろう、と一連の出来事について説明することにした。
「……実は、この願書を貰いに王都へ出掛けた日に、ファティマ先生とお会いしたんです」
「え、ファティマ先生って……有名な薬剤師の人じゃない!?」
有名人の名前が出てくるとは思わずハンジとエルヴィンは、驚いた表情を見せる。ただ、リヴァイだけは、ファティマが誰であるのかわからなかった。
「俺にはさっぱりわからねぇが……そんなに有名なのか?」
「ああ。ファティマさんは、プロの薬剤師であり、薬剤師の中でも一番の権力を持っている女性だ」
眉を寄せるリヴァイに、エルヴィンが説明をする。
そこから、それほど薬剤師として腕を持つ人物なのであることが伺えた。
「色々あって、ファティマ先生とお話をして、その時に言われたんです……『今のやり方では、薬剤師にはなれない』って」
そこでリヴァイは、二人で出掛けた時のことを思い出した。あの時、エミリから聞いたその言葉は、ファティマからのものであったのだと。
「……それから、ずっと考えていたんです。今の私にできることって何なんだろうって」
悩んで俯いていた姿と今のエミリが重なって見える。だけど、下を向いていた顔は、真っ直ぐと前へ向けられ、堂々としていた。
そこから分かるのは、エミリの成長ぶりだ。
「そして、わかったんです。今の私にできること……それは、基礎をしっかりと身につけることだって」