Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
はっきりと言いきったその言葉には、一切迷いが含まれていないことを、三人は感じ取った。
「私は、勉強を始めたのもきっと他の受験者の人たちより遅いですし……訓練や壁外調査で、すごく遅れているんです。
そんな私が、今のままで応用を身につけたって、それはちゃんとした力にならないって思ったんです。
だから、いつか力を発揮できるようにするために、今は時間を掛けてでも、基礎を身につけることに専念しよう、と……」
悩んで、悩んで見つけたエミリの答え。
きっと、その選択はいつかエミリを大きく活かすことに繋がるだろう。
リヴァイたちは、そんな可能性を感じた。
「……エミリらしい答えだね」
ハンジが頭を撫でれば、エミリは嬉しそうに微笑んで見せた。
こんなペースでは、試験に合格する確率はかなり低い。それでもエミリは、速さよりも時間を選んだ。
「私、もう、受からないかも……なんて考えません」
それは、自分の可能性を自ら押し留めることになるから。
だから今は、ひたすら前を向いて突き進んで行くことに決めた。
「君なら大丈夫さ」
ハンジに続いてエミリの頭に手を置くのはエルヴィン。
何も心配していない。失敗しても、また前を向く強さを持っていることを知っているから。
そんな思いを込めて、優しく撫でた。
「じゃあ、私たちはご飯にしようかな!!」
「ああ」
そして、ハンジとエルヴィンは、わざとリヴァイだけをその場に残して夕飯を取りに行ってしまった。
その意図を察していたリヴァイは、余計な気遣いをと思いながらも、それを有難く頂くことにする。
「エミリ」
「はい」
「自信を持って、試験に挑め」
例え、今回の試験が駄目だったとしても、いつか必ず結果を出すことができる。
彼女の努力は、いつかきっと実るだろう。
その勘に確かな根拠はない。そうであって欲しいという思いから出たものだ。けれど、不確定なそれに不安は一切無かった。
「はい!!」
屈託のないその笑顔は、リヴァイが一番好きなエミリの輝かしい笑顔だった。
一つの少女の決意と共に時は流れ、やがて年が明けた。
目まぐるしい日々が続く中、とうとう薬剤師試験の朝がやって来た。