Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「……あの林檎が立派に成っているのは、たくさんの林檎ができるのは、あの一本の幹が、枯れないように根から栄養を吸収して、風に吹かれても倒れない強い土台となっているから」
「あ……」
その説明から、エミリが何を伝えたいのか。それがようやく解ったエレンの瞳に光が宿る。
「エレン、私たちが目指すのはあの一本の幹! どんなに苦しい試練が立ち塞がっても、決して揺るがない土台を作ること。
だからその土台を作るために、基礎をしっかり身につけて、自分の技で勝負しよう!」
超えられないと思っていた大きな壁に、ピシリと亀裂が入る音がした。
それは、自分の未来に続く道が切り開かれる音。
「……ありがとう、姉さん」
エレンはスっと立ち上がり、エミリと向き直る。
迷いが晴れたその瞳は、また以前のように強く輝いて眩しく見えた。
「エレン、くじけたっていいから。でも、必ず前を向いてね。その繰り返しがきっと、自分を強くしてくれる」
「ああ!!」
大きく頷いたエレンは、そのまま自分が帰るべき場所へ走り出す。
その後ろ姿は、少しずつ自信に溢れた光を取り戻していた。
「……エレン、ありがとう」
小さくなっていく背中に、その声は届かない。それでも、きっとエレンにもこの気持ちは伝わっているだろう。
エレンと会えなければ、こうして話をしなければ、見つけられなかった答え。
同じように迷いが吹っ切れたエミリも、調査兵団の兵舎に向かって駆け出した。
今の自分にできること。
それはエレンと同じく、応用よりも先に基礎をしっかりと身につけることだ。
ようやく見えた目標を達成するために、エミリはさらに走る速度を上げていく。
今は早く勉強がしたくて仕方がない。
その気持ちを忘れない内に筆を持つため、エミリはひたすら地面を蹴った。