Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「必要なのは、付け焼き刃な技術よりも基礎をしっかりと身につけることで……あっ」
「姉さん?」
そこでエミリは話を止めた。
口を小さく開いたまま動かない姉の顔を、エレンはどうしたのかと覗き込む。
「……ううん、何でもない」
クスリと微笑むエミリの心情が読めず、エレンは首を傾ける。
今までの会話に面白い部分でもあったのか? といった表情だ。
「話止めちゃってごめんね。
とにかく、私が言いたいことは……訓練で教わったことを何度も何度も、それこそ嫌になるくらい繰り返して、自分なりの強さを身につけて勝負に挑むのが一番ってこと」
それがきっと、今の自分ができること。
焦って近い道を選ぶか、時間を掛けてでも遠回りすることを選ぶか、どちらの道を行くかで未来の自分の力が大きく変わる。
「今の私たちは、時間をかけてでもゆっくり歩んで行くことが、遠回りに思えて一番の近道なのかもしれない。
初心に戻って、学んだことをしっかりと身につけていく」
エレンと、そして自分に向けて、一つひとつ噛み締めながら、言葉を紡いでいく。
「その中で得意なものを見つけて、それを伸ばしながら、苦手なものを克服していくこと。そうすれば、きっと……きっと自分の大きな力となってくれるはず」
さっきまで絡まっていた蟠りが、少しずつ解けていくのを感じる。
「……ねぇ、エレン。あれを見て」
エミリが指を差した方向へ視線を辿ったエレンの目に入ったものは、広場で存在を主張しているかのように立つ大きな林檎の木だった。
「……あの林檎の木がどうかしたのか?」
「あの林檎、すごく真っ赤で美味しそう。きっと、食べたらとっても甘くて、本当に美味しいんだろうなあ」
なぜ突然、林檎の話を始めるのか。エレンはよくわからなかったが、とりあえず黙って耳を傾ける。
「どうして、あんなに美味しそうな林檎ができるんだろう」
「さ、さあ……」
未だに話の意味がわからない。
エミリは、なんのために林檎の話をしているのだろうか。
早く答えを教えてほしいという逸る気持ちを抑え、エミリが自分に何を伝えようとしているのかを考える。