Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
近くのパン屋でお決まりのヌスシュネッケンを買って、広場の噴水に二人並んで腰掛ける。
紙袋から、焼きたてあつあつのヌスシュネッケンを取り出し、二人同時にかぶりついた。
「……久しぶりに食った気がする」
「そう? 私は、ほぼ毎日食べてるけどなあ」
「どんだけ食うんだよ」
姉の好物がヌスシュネッケンであるということは、もちろん幼い頃から知っている。
よくカルラがおやつの時間に作ってくれたから、このパンはエレンも、今でも大好きだ。
美味しそうにヌスシュネッケンを頬張る姉の横顔を見ていると、なんだか少し昔に戻ったような感覚に陥り、切なくなった。
「なあ、姉さん……」
そんな気持ちに知らないふりをするため、エレンは本題に入ることにする。
「……俺がアニに勝つには、どうすればいいと思う?」
「う〜ん……エレン、その子に一度も勝ったことないの?」
「……あ、ああ。情けない話だけど」
「ううん。そんなことないよ」
エミリはすぐにマイナスな発言をするエレンの言葉を否定した。
それは、エレンに対する気遣いなどではなく、エミリの本心である。
「負けたら悔しいし、情けないって思うかもしれない……けど、その負けや悔しい気持ちがあるから、何か苦難を乗り越えた時、心の底から喜ぶことができるの」
だから、挫折して傷つくことで終わるわけではない。
失敗は、新たな道へのスタート地点。傷の数だけ強くなるとはよく言うが、正にその通りだと思う。
「負けを知らない人より、負けをいっぱい知っている人の方が、その分強くなれるんだよ」
自信満々にエレンを慰めるエミリ。しかし、エレンはそんな姉に向かってジトリと冷たい視線を送った。
「姉さんだって、人のこと言えねぇだろ」
「あ、あはは……確かにね」
今も目標を見失い迷走しているところだ。確かにエレンの言う通り、堂々と言える立場では無い。