Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
エミリの強い決意を目の当たりにしたエレンは、言葉を失った。
調査兵として更に高みを目指す姉の姿が、どんどん遠のいていく。
せっかく、訓練兵として少し姉に近づくことができたと思っていたのに、エミリはまた次のステップへ進んでいた。
(……違う。俺と姉さんは、全然違う)
見ているものが、目標の高さがまるで違う。そう錯覚してしまえるほど、自分と姉との距離を感じた。
「エレン? どうしたの?」
急に立ち止まったエレンに、エミリはギョッとして振り返る。
浮かない顔をして突っ立ったままのエレンの様子が、またエミリの心をざわつかせた。
「……全然同じじゃねぇよ」
「え」
「姉さんの方が、十分すげぇ……」
「エレン?」
エレンは拳を握り、肩を震わせて顔を上げようとしない。
エミリは、ゆっくりとエレンの前へ足を運ばせて、顔を覗き込もうとするも、スッと逸らされる。
「俺なんかより、ずっとずっとすげぇよ……姉さん見てると、何でこんな事で悩んでんだろうって、自分が馬鹿みたいに思えてくる」
「…………」
エレンが涙を堪えているということはすぐにわかった。
素直になりたくないのは、きっと自分の悩みが、自分がちっぽけなものだと認めたくないから。
歯を食いしばって懸命に辛さに耐える弟の姿に、エミリはそっと腕を伸ばし、エレンの片手を両手で握った。
「……ある人に言われたの。『今のままじゃ、今のやり方じゃ、私は薬剤師にはなれない』って」
「……え」
静かに告げられた、エミリが直面している悩み事。それを耳にしたエレンは、ふっ……と身体の力が抜けたような感覚を覚えた。