Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「試験まで全然日もねぇし……どうすればいいんだって、ずっと悩んでて……」
「それで、攻略法が見つからないんだね?」
「……あぁ」
少し顔を俯かせるエレンは、現状を打破するための方法が見つからずに相当参っている。
そんなエレンの様子を見て、自分にも心当たりがあった。
「……今のエレンは、私と同じなんだね」
「え」
一瞬、エミリの言葉に耳を疑った。
同じということは、エミリにも似たような悩みがあるのだということに、エレンはすぐに理解した。
「私もね、来年試験を受けるの」
「試験? 調査兵団にも、適正審査みたいなのがあるのか?」
「違う違う。そうじゃなくて……薬剤師になるための試験だよ」
「…………は?」
再びエレンは聞き間違いではないかと耳を疑った。
薬剤師の試験なんて初耳だった。手紙で話されたこともなかったため、冗談でも言っているのかと思ったが、そこでエレンは思い出した。
幼い頃のエミリの夢。
それは、薬剤師になるということを……
「薬剤師って……じゃあ、兵士は!?」
まさか、兵士を辞めて薬剤師の道を進むというのだろうか。
そんなの信じたくなかった。
恥ずかしくて言えないが、調査兵として戦っている姉のことを、エレンは誇りに思っているし、ほんの少し尊敬だってしている。
だから、辞めてほしくないと思う。
けれど、エミリが薬剤師の道を進めば、もう命の危険に晒されることはなくなる。
否定したくない気持ちと、したい気持ちがぶつかり合い、矛盾した思いを抱えたまま、エミリの返答を静かに待った。
「兵士は辞めないよ。兵士のまま、薬剤師を目指しているの」
「え……兵士と薬剤師、両方を……?」
予想していなかった答えに、エレンは再び困惑した。
両方の道を進むということ、それがどんなに厳しい道のりであるか……実際に経験したことのないエレンでも、何となくだがそれを察した。
「……本気かよ、それ……」
「うん。本気だよ」
そう断言したエミリの瞳は、揺らぐことのない決意がそこに表れていた。