Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「それに、私にはもっと甘えてほしいな」
幼い頃のように、「あそんで!」とか、「だっこして」とか、そんな風に甘えてくれることは、もう無いだろう。
でも、それでいい。それでいいからせめて、何か悩みがある時だけは、頼ってほしい。
(……兵長が私を気にかけてくれた時も、こんな感じだったのかな?)
リヴァイと二人で街に出掛けた時、エミリの悩みに気づいて言葉をくれた。
あの時、リヴァイは上司として頼ってほしいと思ってくれたのだろうか。
リヴァイは他人に無関心だが、いつもエミリのことは気にかけている。
今回も受験を目前に控えているエミリの不安を取り除こうと、声を掛けてくれたのかもしれない。
(……私、一丁前に相談されるような立場じゃないね)
それでもやっぱり、弟の悩みにできるだけ寄り添ってあげたい。
少なくとも、自分にはそれができると思っているからこそ、何もしないわけにはいかないのだ。
「……今度の進級試験、アニってヤツが相手なんだ」
静かに切り出したエレンは、真っ直ぐと前を向いたままエミリを見ようとしない。
それはきっと、エレンの精一杯の照れ隠しなのだろう。
「そのアニっていう子は、女の子?」
名前から女性の名だと察したエミリが、確認のために質問すると、エレンは無言でコクリと頷き、そして話を続けた。
「……アニは、俺よりも強くて格闘術にも優れてて……いま、俺が身につけた格闘術も、大体はアイツから教わったものなんだ」
そこからエレンの言いたいことが何となくわかった。
格闘術に関しては、アニという少女から教わったものばかりだということは、その技は彼女にあまり通用しないと言いたいのだろう。
エレンがどんなにその格闘術を使いこなせていたとしても、アニの得意な技で仕掛けても効果は全くないからである。
つまりエレンは、彼女の攻略法を探していて、それが見つからないから悩んでいるのだ。