Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「ところでエレン?」
「……何だよ」
ようやく頭なでなでから解放されたエレンは、げっそりとした表情で乱暴に返事をする。
「エレンって、割と対人格闘の成績良いんじゃない?」
「え、何で……」
エミリの言う通り、まだまだ1位のミカサには及ばないが、確実に、少しずつだがエレンの対人格闘の成績は伸びている。
しかしその報告は、手紙でをやり取りしている中で、エミリには一切成績の話しをしていない。
それなのに、何故わかるのだろう。
「見たらわかるよ。エレン、結構いい線いってるなぁって思ったから」
「……そっか」
普段、そばで自分の訓練の様子を見ていないエミリから見ても、その成長ぶりがわかるほど上達できているのだと、少しの達成感に包まれる。
しかし、そんなエレンの嬉しそうな笑顔の裏に、少し悩ましげなものが混ざっていることを、エミリは見逃さなかった。
「……そう言えば、エレンたちはもうすぐ進級テストだよね」
「……っ」
一年の終わりに行われる進級試験。それが、年が明けて暫くした頃に実施される。
それに合格しなければ、次の訓練の段階に進めない。
もし結果が悪ければ、留年か兵士の志願を辞退するかの二択となってしまう。
そして、エレンの今の悩みの種は、おそらくそれだろうと察した。だからエミリは、試験の話題を持ち出したのだ。
「エレンが悩んでるのは、それでしょ?」
「…………だから何で、何も言ってないのにわかるんだよ」
「わかるよ。エレンのことは、何でもわかる」
家族で、姉弟なのだから。
幼い頃からずっとエレンを気にかけて過ごしてきた。どんな些細な変化だって見逃さない。
そう自負できるほどの自信が、エミリにはあった。
「…………触れられたくなかったら、ごめんね。自分でもわかってるの。本当にお節介だなって」
自分の世話焼きなところは、しっかりと自覚している。
その気遣いが、たまに誰かを追い詰めてしまっていたらと考えてしまうことだってある。
それでも、放っておくことなどできない。