Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
ご馳走になったエミリとエレンは、女性店員に改めてお礼を言ってから店を出た。
お互い時間もあるということで、近況報告でもしながら街を歩くことにする。
「それにしても、エレンってば本当に成長したよね」
「な、何だよ。急に……」
嬉しそうに微笑みながらそう言うエミリの横顔に、エレンは照れくさそうに頬をかく。
「だって、昔はいじめっ子にいつもやられっぱなしだったじゃない?」
「べ、別に……いつもって訳じゃねぇだろ!」
慌ててエミリの言葉を否定するも、焦りが浮かんだ表情で言われても全く説得力が無い。
いつもの負けず嫌いな一面が表れている。それがはっきりとわかる顔だ。
「あと、嬉しかったなぁ。さっき、エレンが私のこと侮辱するなって言ってくれたこと」
きっと、あの時エレンはエミリよりも怒りを感じていたように見える。
いつもの強気な眼差しが、更に鋭いものへと変わっていた。
本気でエミリを思って言ってくれた言葉。
弟のその真っ直ぐな思いは、姉にとってはとても幸せなものである。
「……うるせぇな……つい言っちまっただけで、深い意味はっ」
「でも、”つい言ってしまった”っていうことは、実際そう思ってくれてたってことだよね?」
「〜〜っ」
エミリが更に突っ込みを入れれば、エレンはさっきよりも頬を赤くして不貞腐れた顔をしている。
流石に少し弄り過ぎたかと反省するも、どうしてもこの嬉しい気持ちを抑えられずにまたもやエレンの頭を撫でてしまう。
「だから! 町中でやめろって!」
「町中じゃなかったらいいの〜?」
「いい加減にしろよな!!」
こうしていつもエミリの甘えを嫌がるエレンだが、それでもその手を振り払うことはない。
何だかんだ言って、エレンも嬉しいのだろう。と、エミリは勝手に決めつけていた。