Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「うるせぇのはお前だ!!」
しかし、エミリよりエレンの方が早かった。男の首に腕を回し、羽交い締めにする。
「真っ当に生きることも出来ねぇヤツが、調子に乗るんじゃねぇ!! 調査兵団を……姉さんを侮辱するな!!」
「……エレン……」
いつも意地を張ってばかりのエレンが、こんなにストレートに気持ちをぶつけてくれたのは、いつぶりだろうか。
嬉しくて、涙が出そうだった。
やがて気を失った男の腕が、だらりと力なく下ろされる。ようやく抵抗できなくなった状態となり、一息ついたエレンは、男を地面へ横たわらせた。
「……はぁ……ったく、疲れた」
「お疲れ様、エレン」
どっと溜息を吐くエレンの背中をポンと叩く。そして、お約束の頭なでなでが始まった。
「エレ〜ン、強くなったね!! お姉ちゃんは嬉しいよ〜!!」
「だから! そうやってすぐ頭撫でるの止めろって!! 子供扱いするなよ!!」
「いいじゃない別に! エレン可愛いんだから!!」
「そういうのが鬱陶しいって言ってんだよ!!」
「またまた〜照れちゃって!」
「照れてねぇよ!!」
事件が終わった途端、姉弟喧嘩のようなじゃれあいのようなことを始めるエミリとエレン。
せっかく食い逃げ犯を捕えることができたというのに、最後は全然決まらない姉弟である。
駆けつけた憲兵に三人の男を引渡し、憲兵と共に居た被害を受けた女性店員も含め、事情聴取が行われた。
事件発生の状況に合わせて、エミリも犯人を捕らえた経緯を説明する。事情聴取は30分ほどで終わり、これにて一件落着となった。
「アンタたち、お礼がしたいから是非うちの店に寄っとくれ」
その後、女性店員の誘いを受け、丁度ひと暴れしてお腹が空いていた二人は、二つ返事でお礼を頂くことにした。
「本当にありがとうございます」
「いいのいいの! 食い逃げ犯を捕まえてくれたんだからさ! アンタたちには、タダでご馳走するよ!」
良いことをすれば、必ず良いことが帰って来る。
得した気分になった二人は、店員のお言葉に甘えてタダでご飯を食べたのだった。