Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
小さい頃に薬剤師を目指していた時も、なかなか進まない勉強にモチベーションが低下していた時期があった。
何をやっても、どれだけやっても私には無理なのかも。
そのように思い込み、投げ出そうとした時に掛けてくれた父の言葉が、エミリに元気を与えたのだ。
『分からないなら、それでいい。いつか、分かることができればいいんだ。だから、焦らなくていい。
エミリが頑張っている姿は、父さんも母さんも、ちゃんと見ている。
エミリが夢に向かって一生懸命な姿を見られるだけで、私たちは嬉しいんだ。それは、エミリが成長している何よりの証拠だからね』
あの時とは違う言葉。だけど、確かに似たような温かさがエミリの心に広がった。
おそらく、もう感じることのできないであろう父の温もり。それをもう一度、感じ取ることができてまた少し心が軽くなった。
「えへへ。団長、ありがとうございます」
さっきよりかは、ほんの少しだけだが明るくなったその笑顔に、エルヴィンはうんと頷く。
「君なら、きっと答えを見つけ出せるさ」
「はい!」
迷いなんて、きっとすぐに自分で吹き飛ばしてしまう。エミリは、そういう力を持っている。
進むために、いつも全力なエミリにこれ以上の「頑張れ」は必要ない。
「団長、ありがとうございました!!」
菓子を食べ終えたエミリは、願書を持って団長室を後にした。
一人になった仕事部屋で、エルヴィンは再び仕事に戻る。
兵士として、人として大きく成長していくエミリの姿は、見ていてとても微笑ましい。
だからこそ、何かあればそっと後ろから助言してあげたくなる。
放っておけないのだ。
自然と手を貸してあげたくなるような、引きつける力を持っているエミリは、手助けしてあげたくなるほど危うい存在でもあるということ。
けれど、そんな彼女の人柄が、兵団を少しずつ良い方向へ導いていることに変わりはない。
いつか笑顔で合格通知を見せにやって来るエミリを思い浮かべ、エルヴィンは再び筆を握った。