Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「団長、紅茶お持ちしました!」
エルヴィンがサインを終えたところで、エミリが二人分のカップを乗せたトレーを手に戻って来た。
「ありがとう。ソファに腰掛けて待ってなさい」
「はい!」
願書を机の上に重ねて置き、菓子を準備するために立ち上がったエルヴィンは、収納棚の扉を開いて籠に菓子をいれていく。
どれも高級なものばかりで、エミリが見たら喜びそうなものばかりだ。
「ほら、たくさんあるから好きなだけ食べなさい」
「本当にこんなに頂いてもいいんですか!?」
「私一人では食べきれないからな」
「ありがとうございます! では、いただきま〜す!!」
パチンと手を合わせた後、菓子にかぶりつくエミリは、とても幸せそうな顔をしている。
まるで悩み事など何もないような、輝かしい笑顔で……
「エミリ」
「はい?」
「あまり無理はしないようにな」
エルヴィンの言葉に、口の周りに菓子の欠片を付けたまま何度か瞬きを繰り返したエミリは、困ったように微笑んだ。
「……団長も気づいてたんですか? 私ってそんなに顔に出ます?」
「君はかなり分かりやすいからな」
「そ、そうですか……」
「…………エミリ、君は兵団のために十分やってくれている」
顔を俯かせているエミリの肩が、ピクリと大きく揺れた。
エルヴィンは、そんなエミリの頭に手を置いて優しく撫でながら続ける。
「疲れたのであれば休めばいい。試験は来年だけでなく、再来年もある。チャンスは一度だけではない。だから、あまり自分を追い詰めるな」
「…………」
「君の頑張りは、私もリヴァイも、ハンジたちもよくわかっている。その気持ちだけでも、我々にとっては十分な財産だ」
エミリは、目頭が熱くなっていくのを感じながら、コクコクと頷いた。
今の自分の頑張りたいという気持ちも、迷いも受け入れて支えてくれるその言葉が、ただただ嬉しかった。
(……なんか、この温かい感覚……私、知ってる……)
ゆっくりと瞼を閉じたエミリの脳裏に浮かぶのは、自分が尊敬する父の姿だった。