Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
就寝のため、兵舎の部屋の明かりが少しずつ消えていく。
そんな中エルヴィンは、相変わらず大量の書類と睨めっこを続けていた。
書いても書いても減らない紙に、時々うんざりしながらもこれも団長としての仕事だと気持ちを切り替え、ひたすら手を動かしていた。
それを繰り返していた時、コンコンと扉から静かな部屋に音が鳴り響く。
「エルヴィン団長、エミリです」
「入れ」
外から聞こえた部下の声に入室を促す。「失礼します」と言葉が添えられ、扉が開かれた。
「どうかしたのか?」
「あの……願書に身元保証人のサインと印鑑が必要なんですけど、書いてもらうなら団長しかいないなと思ったので」
「それくらいのことなら構わないさ」
「お忙しいところすみません」
エルヴィンの机の元まで歩み寄り、サインが必要な書類を手渡す。
一度、仕事用の書類を隅に寄せ、代わりに願書を机に置いた。
「あの、よければお茶でもいれましょうか?」
「ああ、頼むよ」
「はい!」
確認のサインを待っている間の空き時間に、紅茶くらいなら淹れられるだろうと、少し足早に扉に向かう。
「エミリ」
「はい?」
扉に手をかけた時、エルヴィンに呼び止められたエミリは、一度足を止めて振り向いた。
「この後、時間はあるのか?」
「いえ、特には……」
「そうか。ナイルから美味しい菓子を貰ってな。一緒に食べよう。用意しておくから、紅茶の方を頼む」
「あ、ありがとうございます!! 持ってきますね!!」
嬉しそうに笑顔を見せたエミリは、そのまま急いで紅茶を淹れるために部屋を出て行った。
パタリと扉が閉じられ、静かになった部屋でエルヴィンは、エミリの願書へ目を通す。
最近、ずっと様子がおかしい彼女のことが気になっていた。
今でもたまに勉強を見てあげているものの、得た知識がしっかりエミリに身についているかどうか、微妙なところだった。
二人でゆっくりとエミリの受験について話す機会も減っていたため、これを機に菓子でも食べながら話でもしようかと思いついたのだ。