Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「お前は、一人で壁を乗り越える力を持っている。せめて自分のその力だけは、信じてやれ」
最後にそう言って、ぽんぽんとエミリの頭を撫でてやった。
受験は、誰が何と言おうと自分自身との戦いだ。だから、これはもう自分を信じるしかないのである。
リヴァイたちの役目は、そんなエミリが揺らがないように支えること。それだけだ。
「そろそろ時間だろう。行くぞ」
時計を見れば、もう夕方の五時を指していた。
注文したアクセサリーも出来ている時間帯だろう。
エミリはヴァルトをもう一度肩に乗せて、リヴァイと並んでさっきの店に戻った。
「兵長」
その道中、前を真っ直ぐと見つめながらエミリがリヴァイに、静かに声を掛ける。
「ありがとうございます……少しだけ、気持ちが楽になりました」
自分の夢を否定されたような、大きな衝撃を受けたエミリは、どんなに励まされても心の重りが軽くなることはなかった。
それなのに、何故リヴァイの言葉には効果があったのか。
それはきっと、リヴァイの言葉だからだろうという結論に至った。
エミリよりも長く生き、兵士長として戦うリヴァイだからこそ、分かるものがある。
それを感じ取ったから、きっと励まされた。
「誰にあんなことを言われたのかは聞かねぇ。だが、お前が道を見失った時は、俺がちゃんと引き戻してやるから安心しろ」
「はい……!」
こういうことを言ってくれるから、リヴァイにはいつまでもついていきたくなる。
一見、冷酷で無表情で、確かに中身もその通りなのだが、彼は仲間にしか見せない温かい心を持っている。
その温もりを、辛い時はいつも与えてくれる。
自分を気にかけてくれるその優しさが、とても特別なものに思え、言葉では言い表せないほどの感謝がエミリの心に溢れていた。