Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
単純に、”やれることをやるしかない”という話ではない。その事実が、重くエミリにのしかかっていた。
そして、それをリヴァイも理解しているから、何を言えばいいのかわからないのだ。
どんな言葉を送るべきか………
それでも、このまま放っておくことなどできなくて、自分の胸の内を正直に打ち明けることを選んだ。
「……俺は、お前のようにそういった勉強ってので悩んだことはねぇから……その、なんだ……勉強で苦しむやつの気持ちを理解することはできねぇ」
どんなことでも、何かを成し遂げるためには必ず苦難がある。
けれど目指すものが違えば、それに伴って苦難の種類もたくさんあるものだ。
リヴァイのこれまでの人生で、勉強などというような策略とはまた違った方向で悩んだことはない。
だから、きっと今のエミリの悩みを全て理解することはできないだろう。
しかし、その苦難全てが違う種類というわけではない。一つの意味だって確かに存在する。
「……お前の今のやり方は、今この瞬間では無意味なものかもしれねぇ。が、この世に無意味なものなんてねぇよ」
どんな道にも必ず意味がある。
その意味が、自分が進む時間の中でいつ効力を発揮するのか。それがわからないだけ。
わからないから、人は苦しんでしまうのだ。
「エミリ、お前のやり方は、おそらく正しくもあり間違いなだけだ。単に時期が早かっただけだろう。
要は、それだけの話だ。お前が吸収したその知識は、必ず未来に活かされる。だから、もっと肩の力を抜け」
「…………はい」
リヴァイの言葉に対し、エミリは顔に影を落としたまま、小さな声で返事をするのみだった。
けれど、その表情は少し柔らかくなったように思う。
だが、それでいい。
少しでもエミリの心に響いたのであれば……
今の言葉ですぐに立ち直ることができるくらいなら、こんなにも悩んでいないだろう。
だから、あくまで気休め程度に受け取ってくれるだけで構わない。