Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
きっと、誰にも知られたくなかったのだろう。膝の上で拳を作ったまま顔を上げてくれない。
エミリが声に出さなくても、周りはしっかりと彼女を見ている。
ハンジもエルヴィンも、エミリが何に悩んでいるのか、きっとわかっているはずだ。
ただ、その周りの気遣いにエミリが鈍感なだけ。
その悩みに対する答えを探すのに必死で、周りを見ている暇がないのだろう。
だから、そうやっていつも真っ直ぐだから、手を差し伸べたいと思える。
「……俺が、どれだけお前のことを見ているかわかってんのか?」
「…………え」
リヴァイのその言葉に、エミリがゆっくりと顔を上げていく。
「お前は放っておけねぇんだ。目を話せば、いつも危ねぇ道に突っ込んでやがる。だから、こうして俺が監視しておかねぇと、と思っちまうんだろうが」
「……兵長」
ようやく本心を自分の顔に出して見せたエミリに、優しく微笑んでやる。
相当参っているのか、不安に揺れるその瞳は助けを乞うているようだ。
「……わたし、わからないんです。どんなやり方で勉強すればいいのか……」
ゆっくりと小さな声で吐き出されていく、エミリの心の鉛。
リヴァイは黙って、それに耳を傾けた。
「わたし、いまのままじゃ……試験に合格できない。薬剤師になれないって……」
「それは、誰かに言われたのか?」
エミリの様子から、その言葉は自分で追い込むために出てきたものではないと察した。
確認のため質問すれば、無言でコクリコと頷くエミリ。やはり予想通りであると納得した。
問題は誰に言われたか、だ。
恐らく、兵団の者がふざけて言ったものではないだろう。それくらいのことならば、いつもの明るさで吹き飛ばしてしまう。
けれど、それができない程にエミリは追い詰められている。一体、誰に言われたのだろうか。
「……今の私にできることって、何なんですか。これまでのように、ただ勉強していたって意味が無い。だって、それ自体を否定されたんですよ……? なら、どんなやり方がいいんですか」
一番助けを求めているその部分が、ようやく打ち明けられた。しかし、その悩みに対してリヴァイもどう答えていいか、わからなかった。