Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
エミリは、ヴァルトを肩に乗せたまま購入品を書いたメモを持ち、リヴァイと猛禽類の専門店へ足を踏み入れる。
店内には、数匹の鳥たちがパーチに乗って毛繕いをしていたり、目を閉じて眠っていたりと自由に過ごしている。
他にも、猛禽類を育てる上で必要な道具が棚に並んでいた。
「いらっしゃい。今回はどのような件で?」
「あの、この子の日用品を揃えたくて」
店主である老人が、穏やかな笑みで声をかけてくれたため、エミリは肩に乗っているヴァルトを見せる。
「ほう、なかなか良く育てられておる。名前は何というのかね?」
「ヴァルトです!」
「そうか、良い名前じゃ。ヴァルトも幸せじゃろう。こいつに合いそうな道具を持ってくるから、少し待ってなさい」
そう言って、店主は売り物を取りに店の奥の部屋へ入って行った。
カチコチと時計の秒針だけが店内に響き渡る中、エミリとリヴァイは並んで店主が戻ってくるのを待つ。
「……そういや、そいつの餌はどうするつもりだ?」
ただ待つだけなのも暇ということで、リヴァイからエミリに話を振る。
「餌ですか。それについては心配いりません。この子、多分自分で捕まえて食べてきますから!」
知らない間に馬小屋から姿を消している時があるが、それはヴァルトが狩りに出ているからだ。
ヴァルトは、雛の頃からずっと野生の野ねずみや虫を捕らえて食事をしていた。そのやり方は、今でももちろん変わっていない。
というよりも、それがフクロウの本来のあるべき姿なのである。
「ヴァルトにも、好き嫌いはありますし……やっぱり好きなものを食べてほしいですしね」
ヴァルトの頭を撫でながら話すエミリの表情は、とても優しいものだった。ヴァルトを大切に育ててきたのだろう。
エミリとヴァルトが戯れている姿を見ているだけで、それが伝わってくる。
「ところで、どうして兵長は買い物に付き添ってくれてるんですか? 団長からの命令とかですか?」
「そんなんじゃねぇよ。まあ、また後で話してやる」
「……は、はあ」
何か街に用でもあったのだろうか。それならば一人でも問題ないはずだ。
リヴァイの考えが読めず首を傾けていると、店主が箱を抱えて戻ってきた。