Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
ヴァルトを肩に乗せたエミリは、エルヴィンからヴァルトの日用品を購入するための費用を貰うために団長室へ向かっていた。
考え事をしながらぼーっと廊下を歩くエミリは、何かの拍子に怪我を増やしそうでとても危うい。その証拠に、前からやって来るリヴァイの存在に全く気づいていない状態なのである。
「おい、エミリ」
「…………へ?」
突然、名前を呼ばれたエミリは、一つ瞬きをした後いつの間にか目の前に立っているリヴァイを視界に入れる。
「『へ?』じゃねぇ。何アホ面下げて歩いてやがる。危ねぇだろうが」
「……兵長?」
いつから居たのだという疑問が顔に表れているエミリの額に、中指と親指を使って強く弾けば、「イダッ!!」と大袈裟に声を上げてジンジンする部分を片手で抑えている。
「目ぇ覚めたか」
「もっと手加減してほしかったです……」
「そうか。ヴァルトの嘴でつついた方が良かったかもしれねぇなあ」
「ヴァルトは私にそんなことしません!!」
頬を膨らませ不満顔を見せるエミリは、いつも通りに見える。
しかし、それは誰かがそばにいる時のみで、最近は一人になると上の空になることが多いのだ。
また、何か一人で悩みを抱えているのだろうということは、簡単に予想がついた。
「とにかく、私はこれからヴァルトと一緒にお買い物に行くんです! 団長からお金貰いに行くとこなんですから退いてください!!」
リヴァイにこんなことを言えるのもエミリだけだろう。威張っているわけでもなく素でやっているところがまた関心する。
「わざわざエルヴィンの所に行かなくても、ヴァルトの費用なら俺が預かってる」
懐から茶色の封筒を取り出し見せてやる。エミリの表情は一気に明るくなり、その封筒を受け取ろうと手を伸ばした。
しかしリヴァイは、すいっとエミリの手を避ける。
「え」
「俺も買い物に付き添う」
「……はい?」
「ほら、行くぞ」
言葉を理解出来ていないエミリの横を通り過ぎ、スタスタと歩いて行く。
「……何で、兵長も?」
訳が分からないまま、エミリは静かにリヴァイの後を追いかけた。