Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
暖炉によって温かくなった団長室では、分隊長を集めて会議を開いていた。
つい先程、それを終えたエルヴィン、ハンジ、ミケの三人は、淹れたてほかほかの珈琲を飲んで一服していた。
「そういえばリヴァイはどこ行ったの?」
ハンジが珈琲を淹れに行く前まではこの部屋にいたはずなのに、いつの間にか姿を消していた。
「あいつなら出掛けた」
ハンジの質問に答えたのは、ミケだった。相変わらずスンと鼻を鳴らし、珈琲の香りを堪能している。
「出掛けたって、どこに?」
「ヴァルトの費用が入っただろう。エミリと街へ出てヴァルトの日用品を買いに行く、とな」
「へぇ〜〜? わざわざ付き添うなんてさぁ、リヴァイってばどんだけエミリのこと好きなんだろうね〜」
グフフと気持ちの悪い笑みを浮かべるハンジは、相変わらず何かを期待しているような目をしていた。どうせ二人が帰ってきたら、またリヴァイを茶化すのだろう。
確かにあの二人の関係は、エルヴィンも気になるところだが、そんなことよりもエミリのことの方が気がかりだった。
「リヴァイがエミリの買い物に付き合う理由は、エミリの様子に勘づいていたからだ」
最近、少し思い詰めたような顔でぼーっと考え事をしているエミリの姿を目撃する。それだけでなく、訓練中に小さな怪我を負うことも増えたのだ。
「あ〜なるほどねぇ……」
エルヴィンの話にそう言えばと思い出すのは、勉強に身が入らないと嘆いていたエミリの姿だ。
エミリが悩み事を抱えているということは、ハンジも少し前から気づいていた。
「何かエミリから聞いているのか?」
「それがさあ、自分の問題だからって話してくれないんだよねぇ……」
エミリを気にかけたミケの質問に、ハンジはやれやれと肩を竦めて答える。
いつものエミリの強がりは、こういう時に厄介だ。誰かを頼ろうとしないから、見ているこちらがいつも不安になる。
「まあ、その件についてはリヴァイに任せよう。あいつは、エミリが一人で悩みを抱え込むことを許さないだろうからな」
惚れた女に対しては、わかりやすい程感情を露わにする兵士長を思い浮かべ、エルヴィンはフッと口角を上げた。