Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「ファティマ先生の言葉の意味、まだわからないんだ」
「……最終的に言いたいのは、試験に合格できないってことなんだろうけど」
問題は、”そんなやり方”という部分だ。やり方とは、つまり勉強法のことを言っているのだろう。けれど、それの何が間違っているのかまでは、まだわかっていない。
「わたし、何が間違ってるんだろう……」
ずっとそれが気がかりで、勉強にも集中できない日々が続いていた。
最初の方は、考えたって時間が過ぎるだけだと勉強に取り組んでいたが、勉強のやり方が間違っているのなら、気持ちを切り替えて勉強しても意味が無いのではないか。
そのような考えがエミリの思考をどんどん埋めつくし、結局、勉強に手をつけられずにいたのだ。
「……どうしよう」
試験日は近づく一方でもう目前なのに、このタイミングで勉強法に悩むなど思いもよらなかった。その時、
ボスッ……
ずっと足元を眺めていたエミリに、冷たい何かが頭に飛んできた。見るまでもなく、これは確実に雪合戦で投げた雪玉だろう。
声も出さずに顔をあげれば、そこにはマズいと顔を歪めたフィデリオがいた。
「げっ、エミリ……!? や、やり返すなら来いよ!!」
そう言って、再び雪玉を抱え警戒態勢に入るフィデリオ。それを見て立ち上がってエミリに、やり返しに行くのかと誰もが思ったが、その予想は外れ、無言で兵舎の中に戻って行った。
「……あいつ、まだ悩んでんのか?」
フィデリオの隣に並んだオルオが、やれやれと息をつきながら小さくなっていくエミリの背中に視線を固定している。
「いつもならすぐやり返してくるのに……」
「でもエミリ、午後からヴァルトの道具買いに行くって言ってたわよ?」
「それでも1回くらい投げ返してくるだろ。あいつの性格考えりゃ、普通」
「確かに」
それだけエミリは、今大きな壁にぶち当たっているということなのだろう。それならば、フィデリオたちが出来ることはエミリを見守ること。それ以外には何も出来ない。
勉強や試験というものは、完全に自分との戦いとなるから。