Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
12月の冬は、外が真っ白な世界になるほどの寒さである。ちらほらと空から降り注ぐ粉雪が、街をコーティングしていく。
幻想的な雪景色の中で、子どもたちは雪遊びに勤しんでいる。雪だるま、雪合戦、雪に足跡をつけて遊ぶ子どもたちの姿が、この季節では日常茶飯事となっていた。
それは、調査兵団の兵舎でも同じである。調査兵団に所属している若い兵士たちが、兵舎の庭で雪合戦を行う。これは毎年の恒例行事となっていた。
この季節は演習場にも雪が積もるため、立体機動装置の訓練は禁止されている。雪で滑りやすくなっている演習場での転倒を防ぐためである。
この日も兵舎の外では、兵士たちが壮絶な雪合戦を繰り広げていた。
「てんめぇ、当てやがったな!!」
「へへっ、やり返せるもんならやり返してみブッ」
「ったく、男子っていつになっても子どもなんだから」
「本当よね〜キャア!?」
「うっせぇぞ、女子!!」
「やったわねぇ!!」
飛び交う雪玉が人とぶつかり鈍い音を鳴らす。雪合戦では、参加せずに静観していたとしても、当事者に巻き込まれどんどんヒートアップしていく。よくある話である。
どんどん盛り上がっていく雪合戦。幼い子どものようにはしゃぎ回る同期たちを、エミリは遠くからぼーっと眺めていた。
「……はぁ……」
毎日必ず10回は吐くようになった悩みの溜息。今日も何度目かわからないそれを、意味もなく吐き続ける。
ファティマと出会い、あれから一週間が経った。
彼女から放たれた厳しい言葉の意味は、まだわからずにいた。エミリの溜息の理由はそれである。
「…………はぁ〜……」
「また溜息ついてるの?」
「……ペトラ」
雪合戦に参加していたペトラが、休憩でエミリの隣に腰を下ろした。
「珍しいね。いつもなら、『体が鈍っちゃうから雪合戦して暴れてやるんだ!!』って、絶対参加してるのに」
「うんー……」
微妙なエミリのその返事は、「それすらやる気が起きない」という意味であることを、ペトラはすぐにわかった。