Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「あ、この本……」
店員の暴言とファティマの登場で、エミリはすっかりと当初の目的を忘れていたことに気づく。
「その服装と自由の翼……貴女、調査兵団の兵士なのよね?」
「あ、はい。そうです……」
「どうしてこの本を?」
「……薬剤師になるための、勉強をしているからです」
薬剤師の中でも一番のお偉いさんに、薬剤師になりたいと伝えるのは中々緊張した。同時に頭に浮かぶのは、先程の男性店員の言葉だった。
兵士が薬剤師を目指したって、何も悪いことではない。けれど、あの店員の言葉がエミリの不安を煽っていた。
「もしかして、来年の試験も受ける予定なのかしら」
「はい! そのための願書を貰いに行ったのですが……」
「なるほど。それで、彼が貴方に文句を言っていたのね」
「……はい……」
エミリは、膝の上でギュッと拳を作った。店員の言葉を思い出す度に腹が立って仕方がない。
調査兵というだけで馬鹿にされる理由がわからない。人類のために、自由のために戦うことが、そんなにいけないことなのかと、歯痒い気持ちでいっぱいになる。
「……貴女、名前は?」
そんなエミリの横顔を眺めていると、エミリが何を思っているのか察したファティマは、悪い事を考えさせないために話題を変えるた。
「え、あ……エミリ・イェーガーと申します!」
「……え」
イェーガー、その名前にはファティマにも聞き覚えがある名前だ。というよりも、その名前から連想した相手とは、以前何度か会ったことがある。
「……グリシャさんの娘さん?」
「ファティマ先生、父さんのことご存知なんですか!?」
「ええ、何度かお会いしたわ。あと、小さい頃の貴女ともね」
「私と?」
ファティマの言葉に大きく目を見開く。残念ながら全く記憶にないため、エミリからすれば初対面だ。