Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
ファティマに続き部屋を出たエミリは、そのまま彼女に外へ連れられる。
前を歩くファティマの後ろを、背中を丸めて歩いていた。
「貴女、この後時間はある? 先程のお詫びをしたいのだけれど」
「えぇ!? そ、そんなのとんでもないです!!」
「いえ、そういう訳にはいかないわ。彼は私の部下でもあるの。お客様である貴女に無礼を働いたのだから、ちゃんとお詫びをしたいの」
これまでのキツめの表情とは打って変わり、柔らかく微笑んで見せるファティマに、エミリはポカンと口を開けたまま彼女を見つめる。
「だから、ね?」
「は、はい! ありがとうございます……!」
慌てて頭を下げるエミリに、ファティマはクスリと上品に笑いを零すと、再び歩き出した。
近くの喫茶店に入店した二人は、カウンター席に並んで腰を下ろす。
エミリは、憧れの先生と共に時間を過ごせることに感動しながらも緊張しているせいか、体がガチガチに強ばっていた。
「ほら、貴女も注文して。遠慮なんてしなくていいから、好きなもの選んでちょうだい」
「は、はい!! えっと、それでは……この、レモンティーで」
「せっかくだからケーキも」
「えぇ!? け、ケーキまで……あ、えっと、それじゃあ……このキャラメルソースのパンケーキをお願いします」
カチコチになりながら注文を頼むエミリの反応に、面白そうに笑うファティマ。エミリは、恥ずかしげに頬を染めた。
「少し、気になったことがあるのだけど……」
注文したケーキをフォークでつついていると、隣からファティマに話を振られる。エミリは口元に付いたソースを布巾で拭い、彼女に向き直った。
「はい! 何でしょうか……」
「ふふ、そんなに緊張せずに、もっとリラックスしてくれればいいのに」
「す、すみません……」
最初はどうしても緊張してしまう。
エルヴィンやリヴァイに対しても、最初は今と変わらない態度だった。こればかりは仕方がない。
「これ、さっき貴女が買おうとしてたものだけど……」
そう言いながら、エミリの前に一冊の本を滑らせる。それは、さっき薬屋で購入するつもりだった問題集だった。