Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
「さて、改めて……何があったのか説明してもらおうかしら」
部屋に通されたエミリは、来客用のソファに座らされた。向かいには店員がファティマにペコペコと頭を下げながら作り笑いを浮かべている。
「いや〜、すみませんねぇ。この娘がいきなり文句を言ってきたものですから。ハハハ」
「は?」
全く事実と違うことを言い出す店員に、再びエミリのフラストレーションがたまっていく。
そして、同時に反論するのも面倒になってきた。この男は、こちらが何を言っても嘘を吐き続けるのだろう。
かと言って、そのまま悪者扱いされてもかなり理不尽だ。
「いやぁ、私もこんな子供にムキになるなんて大人気ない! 気をつけてなくてはなりませんねぇ」
ああ、本当に大人気ない。
エミリは、疲れと呆れから盛大に溜息を吐いた。
この男と同レベルになりたくないのであれば、ここは流しておくべきなのだろう。それでもやはり納得がいかない。
「そうですか。貴方の言い分はよくわかりました。ですが私には、彼女が貴方に暴言を吐かれているように見えたのだけど」
ファティマの発言に、床に落とされていたエミリの視線は彼女へ向けられた。
「い、いや……それは、ですね……」
「まあ、貴方がどう弁明しようが構いません。だけど、自分を大人気ない人間だと認識できる”貴方ほどの薬剤師”であれば、自分がした行いの善し悪しは、自覚できているはずですわよね?」
ファティマに追い打ちをかけられた店員は、黙ったまま何も発言しようとしない。
張り詰めた空気がエミリたちを覆う中、ファティマは音を立てず優雅に席を立った。
「私からは以上です。それでは、私はこれで失礼します。それと、貴女」
「あ、はい……!」
「私と一緒に来てちょうだい」
「は、はい! わかりました!!」
ファティマは、拳を震わせる店員を一瞥しエミリを引き連れて部屋を後にした。