Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第4章 相棒
巨人から守ろうと子供の元へ駆けつけた少女の顔は、何故か分からないが今も覚えていた。
茶色の髪から覗く琥珀色の瞳からは、儚くも強い意思を感じた。
そして、思い出す、昨夜の宴とさっきのハンジの言葉。エミリはあの日の惨劇を受けていると。確か、少女の名もエミリだった。
あの時の少女と、いま目の前に立つ新兵の姿とが重なる。
「……お前、あの時のガキ共か」
驚いたように目を見開くリヴァイに、エミリもまさか彼が自分のことを覚えていてくれていたとは思わず目を丸くした。
「覚えていたんですか……?」
「……まぁ、な」
住民達は、ただただ助かりたい一心で巨人から逃げていた。それだけだった。
その場に居合わせていた駐屯兵もまた、巨人の恐怖に心が支配され、自ら立ち向かおうとする者は見られなかった。
そんな中、エミリが子供を守ろうとする姿は印象的だった。だから、覚えていた。
「……お前、何故あの時、あのガキを助けに行った?」
気づけばそんな質問を口にしていた。
リヴァイはエミリの返答を待つ。しかし、なかなか返事のないエミリを不思議に思い、彼女へ視線を移した。
エミリはキョトンとした顔で、僅かながら身長が上のリヴァイを見上げている。
「おい」
「あ、すみません……まさか、そんな質問されるとは思ってなくて」
エミリはふにゃりと困ったように微笑むと、橙色に染まり始める空を見上げて言った。
「特に、理由なんて無かったと思います。『助けなきゃ』って思ったら、気づいたら身体が勝手に動いていた。それだけです」
さも当然のことのように答えるエミリだが、それはなかなか出来ない事だ。
人類を破滅へ導こうとする巨人は、人間にとっては悪魔のようなもの。『助けなければ』と思っても、そこで踏みとどまってしまうのが人間という生き物だ。
何故なら、自分の先の未来が見えてしまうから。
"死"への恐怖。
体が受けるものは、想像を絶するほどの"痛み"。
それらに打ち勝つには、相当な度胸が無ければ巨人に立ち向かうことは出来ないだろう。