Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
気持ちよく眠っている所を起こすのも気が引ける。エミリは、小声で「おやすみ」と声を掛けてから、静かに馬小屋を後にした。
現在、ヴァルトの寝床は馬小屋だった。
猛禽類が休むための止まり木もまだ無いため、木の枝や板を使用して作った仮の止まり木を作り、リノの近くに置いてあるのだ。
午後から街へ出かける予定があったエミリは、せっかくの機会にとヴァルトを肩に乗せて連れていくつもりだった。
しかし、眠ってしまったのであれば仕方がない。
馬小屋から現在も寝泊まりしている大部屋へ移動したエミリは、出掛ける準備を始めていた。
今回のエミリの目的地は、ウォール・シーナ内に建つ薬屋だった。
そこで、薬剤師試験を受けるための願書を貰わなければならないのである。
試験が行われるのは来年の1〜2月にかけてだ。願書は、年内までに提出しなければならない。
もう12月となり、あっという間に雪が降る季節となった。試験も目前である。
「それじゃあ、行ってくるね!」
「うん、気をつけて!」
部屋で読書をしているペトラに一声掛けてから、エミリはマフラーを巻いて部屋を出た。
外の寒さは今年も相変わらずで、急激に体温が下がっていく感覚を覚える。エミリはブルリと身震いし、手を摩りながら外を歩いていた。
この季節は雪が積もるため、暫く壁外調査は無い。兵士たちが心を休めるための貴重な期間である。年末年始は、実家に戻る兵士も多い。
しかし、エミリの家はもうこの兵団のみだ。そして、今年は勉強漬けになるだろう。
勉強の方も最後の追い上げに入らなければならない段階なのに、応用問題に挑戦してもなかなか点数が上がらない。それが、今の現状だった。
(なんとかして、試験までに間に合わせないと……)
もともと勉強を始めるタイミングがかなり遅かったため、他の受験者とも当然差が空いているだろう。それでも、やると決めたのだ。諦めたくない思いが強かった。