Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第16章 欠落
ヴァルトが兵団にやって来てから一ヶ月と二週間が経過した。この期間は、エルヴィンが提案した新体型の長距離索敵陣形の訓練が主だった。
これまでの訓練のスケジュールを大幅に変更し、ヴァルトのフクロウとしての特性を活かす訓練を兵団全体で行った。
最初の方は、エミリとフィデリオの指示しか聞かなかったヴァルトだが、今ではエルヴィンやハンジたち、他の兵士の言うことも聞くようになった。
それは、ヴァルトが調査兵団の人間を信用するようになった証拠である。
それから、すっかりヴァルトは兵団の皆から可愛がられるようになり、ペットしてではなく仲間としても親しまれていた。
そして、先日行われた壁外調査では、エルヴィンが計画した通り、フクロウの特徴を駆使した伝達役を見事に成し遂げ、ヴァルトは正式に調査兵団の一員として迎えられることになったのである。
「ヴァルト、良かったねぇ! これでヴァルトも今日から立派な兵士だよ!!」
エミリが話し掛ければ、ヴァルトはゆっくりと顔を傾ける。そんなヴァルトに、人差し指で頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を閉じていた。
「今度、街に行って鳥籠とかアンクレットとか買いに行かなきゃね! あ、そうだ!! せっかくだから、ヴァルトが今付けてるリボンに、自由の翼の紋章でも付けてみる?」
ヴァルトを拾った時から首輪代わりに付けていたオレンジ色のリボン。それは、エミリと会えなくなった後も、ずっと付けてくれていたようだ。
「費用が入ったら、一緒に街に出掛けよっか!」
ヴァルトが正式に調査兵団の一員と認められたため、費用は全て上から賄われることになった。ヴァルトを兵団に置いておく上で金に困ることは無いため、エミリも安心して育てられる。
「お金入るの来週らしいから、一緒に買いに行こっか!! あれ?」
反応が無いと思ってヴァルトの顔を覗き込めば、目を閉じて眠っていた。