Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「団長、一ヶ月ほど時間を頂けますか?」
とにかくやってみる。それがエミリの出した結論だった。
一ヶ月でどこまでやれるかはわからない。しかし、ヴァルトの活躍が期待できれば、また少し兵士の生存率が上がるかもしれない。
何より、また一緒に居たいと思うから。もし上手くいかなくても、また別の方法でヴァルトを兵団に置く方法を考えればいいだけのこと。
「では、一ヶ月の間はヴァルトの訓練を優先してくれ。必要な道具は、こちらで調達しておく」
「ありがとうございます!」
「ただし、君は体の回復が先だ。無茶をされては困るからな」
「は、はい……」
再びエミリが問題児と化す前に、口止めに成功したエルヴィンはにこやかな表情だ。ただでさえ怪我をしているのに、これ以上エミリに傷を増やされたら不安で仕方がない。
エルヴィンは、網を持ったまま固まっている部下たちに兵舎へ戻るよう促し、エミリたちも一旦解散となった。
エミリは、一度ヴァルトをフィデリオに預け、再びリヴァイに背負ってもらい医務室へ戻る。
「兵長、何度もすみません……」
「全くだ。手ぇ煩わせやがって」
言っても聞かない部下に溜息を吐きながら何度も思ってしまう。自分が好きになった女は、自分の好みのタイプと真逆だと。
どちらかと言うとリヴァイは、静かで大人しい人が好みだ。
しかしエミリは、落ち着きも無いし、中身はまだまだ暴れん坊の子供に等しい。よく騒ぐし口煩い時もあれば、口より手が出る方が早い時もある。なかなかのお転婆娘だ。
いつか、ピクシスが言っていた。
『自分の運命の相手は、自分が思い描く人間と全く違う。でも、だからこそ面白い』と。
確か、リヴァイが兵士長に任命された後だったか、ピクシスに色恋沙汰は無いのかと問われた時に言われた気がする。
(年の功ってやつか……)
全てを見透かされているようなピクシスの発言に、いつもうんざりしていた。けれど、彼の言葉は現実になった。
今、リヴァイが想いを寄せている相手がそれを証明している。
これだから年長者は嫌いだと、エミリに聞こえない程度の大きさで舌打ちを鳴らす。