Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「兵長!」
リヴァイの肩からひょっこり顔を出して呼び掛けるエミリ。そんな彼女の表情は、とても楽しそうな顔をしている。
「兵長も今度、ヴァルトを腕に乗せてみませんか? 可愛いですよ!」
ヴァルトとの再会がよほど嬉しいらしい。怪我をしているというのに相変わらず元気はつらつである。
「お前の怪我が治ったらな」
「じゃあ、早く治さないとですね!!」
リヴァイの背中に乗りかかったまま、呑気に鼻歌を歌うエミリに呆れるが、元気が無いよりかは断然良い。
フィデリオの腕に乗って移動しているヴァルトへ視線を寄越せば、ヴァルトは首を捻りながらリヴァイの顔を覗き込んでいた。
ペットは飼い主に似るという。ヴァルトもエミリに似てやんちゃなフクロウである可能性は十分高い。
また、煩いやつが増えるのかと思うと少し憂鬱だ。
(が、悪くない)
今まで自分が取り巻く環境は、とても暗くて冷たいものだった。だから、きっと周りが騒がしいくらいが丁度良い。
大切な人を失うのが怖い。その思いがリヴァイの強さの源であり、また、自分の弱さでもある。
けれど、怖くてもまた手を伸ばしてしまうのは、それが自分にとって心地良いものだと自覚しているからだ。
人間は欲深い生き物だから、誰かのそばにいることの温かさを知ってしまえば、再びそれを求めてしまう。失うことの恐怖を知っていても、何度でも……
だが、それでいい。
それで強くも弱くもなるのなら、その弱さを乗り越えて強く在ることを選び、望む。
「兵長、フクロウが幸福を呼ぶ鳥と言われているのを知っていますか?」
「幸福?」
「はい。昔は不吉な鳥と言われていたらしいのですが……でも、ヴァルトは私を助けてくれました。だから、きっと兵団にも幸福をもたらしてくれるって思うんです」
「……確かに、そうかもな」
大切な人が今、自分のそばに居るのは、ヴァルトがエミリを救ってくれたお陰だ。間違いなく、ヴァルトは幸福を呼ぶ鳥だ。
「……ヴァルト、ありがとうな」
誰にも聞こえない音量で紡いだ言葉は、聴覚の良いヴァルトにはしっかりと届いていた。
ぐるりと首を一回転させたヴァルトの行動は、リヴァイの言葉に反応を示したからなのか、それは、ヴァルト本人しかわからない。