Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「そういえば昔、フクロウは記憶力が良いという文献をどこかで読んだことがあります」
声を上げたのは、モブリットだった。エミリとハンジは、彼の話に顔を見合わせる。
「……記憶力?」
「はい。いくつか事例もあるそうですし……」
自分を助けてくれた人間に恩返しをするため、毎日その人間に狩りで捕らえた獲物を届ける。
今回エミリがやったように、名前を呼べば鳴き声を上げながら走り寄ってくることなど、様々なエピソードがあるようだ。
実際、ヴァルトはエミリの鈴の音を覚えていた。その説を論証するには十分な事実である。
「雛の頃に嫌がらせをしてきた人間を大人になってから仕返しする、という説もありますしね。頭部を何度もつつくとか……」
「……こ、怖い」
モブリットが上げた悪い事例に、再びペトラと二ファが縮こまる。
「でも、基本的に鳥類って頭が良いですよね。ヨウムなんかは、人の言語を理解できると言われてますし。カラスもクルミを割る際に道具を使いますから、フクロウもそれなりに知能が高いんじゃないでしょうか」
モブリットの解説に、「なるほど」と全員が納得した表情を見せる。
それならば、そのフクロウの記憶力を上手く活用し、兵団に活かすことができるかもしれない。
「モブリットの話を聞いて一つ考えがあるのだが……」
「お、出たね〜エルヴィンのとんでもないヒラメキ! 何なに? 今度はどんなの考えたの?」
「壁外調査にヴァルトを同行させれば良いのではないかと思ってな」
「え、ヴァルトを……ですか?」
「うむ」
まさかの提案にエミリは、パチパチと数回瞬きをしながら首を捻る。そんな彼女に釣られたのか、ヴァルトも同じように首を傾け、エルヴィンの顔を覗き込むように見上げていた。
「おい、エルヴィン。いくら記憶力が良いと言っても、どうやってこいつを活用するつもりだ?」
ヴァルトを活用するのであれば、確かに壁外調査でしか出番は無さそうだ。しかし、どのような役割を与えるのか。そこが一番の問題点である。